サイドストーリー

One Raven’s Chronicle No.7 復讐劇『二年越しの決着』
作戦開始から五分、ミッションは佳境を迎えていた。輸送機が到着してから、MTの増援は
あったものの、やはり散発的なもので、輸送機は離陸体勢に入っていた。
 
ウェイン「ち、いくら弱っちくてもこう何度もこられちゃな…。」
 
フドー「…!また増援か。きりがない。」
 
ウェイン「残弾は90発か…。至近距離まで近づいて一撃で仕留めるしかないか。」
 
オレは敵MTに肉迫し、零距離からの攻撃を敢行する。
 
ドゥッ…
 
ライフリングが見えるほどの距離から放たれた銃弾が、無慈悲にその小さな体を貫く。そして
制御不能となったそれは、別の機体に激突、共に四散した。
 
フドー「これで終わりだな。」
 
フドーが残った一機を破壊し、そのすぐあとに輸送機が離陸した。
 
機長「レイヴン、感謝する。」
 
 
 
「そろそろだな。頼むぞ、カナン、ライヤー。」
 
カナン「了解。エメラルドスプリット、行きます!」
 
ライヤー「フフフッ、やぁっと出番ねェ…。ダウンハーティッド、出るよ!」
 
白と紫のACが移動を開始した。
 
(役者は揃った。後は舞台を盛り上げてくれよ、ウェイン。主役がやられては劇が台無しだ。)
 
 
 
メリル「レイヴン、作戦は成功です。帰還して…、待ってください!AC二機接近中、迎撃してください!」
 
フドー「……これが本命か。だが輸送機を落とすには遅すぎたな。」
 
ウェイン「………まさかあの紫のACはッ!!奴だけはオレが殺す!!!」
 
フドー「勝手にしてくれ。俺は白と緑の方をやらせてもらう。」
 
オレはレーザーキャノンを構え、フドーは少し前進して迎撃体勢に入った。
 
 
カナン「そろそろだ。お前には青い方を任せる。」
 
ライヤー「わかったわよ。つまんない相手だったら許さないからね!!」
 
カナン「その心配はない。奴はCランクのトップクラスだ、そう簡単にはいかん。私は先行してもう片方
の相手をする。急げよ。」
 
 
その頃…。オレは格納庫の前でレーザーキャノンを構え、時を待っていた。初弾必中。他の武器の残弾
が心許ないので、奴が来るまでにできる限りダメージを与える必要がある。幸い、レーザーキャノンは使
う機会がほとんどなかったので、残弾は十分にある。
 
メリル「! 敵AC、加速しました!超高速接近中!!」
 
フドー「どうやら俺の相手が先に来たようだ。始めさせてもらう。」
 
 
カナン「まずは挨拶代わりだ。」
 
高速移動中のACがミサイルを射出、速度を増しつつ迫る。そしてすれ違いざまにショットガンを見舞う。
その挨拶に、フドーもマシンガンとグレネードで応えた。
 
フドー「ちィ!時間差か!」
 
ショットガンに引き続き、次はミサイルが襲ってきた。今のACはOBでミサイルを追い抜き、そしてさらに
それを後ろに隠しながら接近したことになる。フドーはそれをかろうじてかわす。
 
カナン「まだ終わりではない!」
 
すでに背後に回り込んだ彼女は、月光―MLB−MOONLIGHT―を振りかぶっていた。圧倒的な破壊力
を持つそれは、多種多様な銃火器が出回っている今日でさえ、絶大な人気を誇っている。さらに改造され
ているせいか、通常のものより多少刀身が太く、長い。
 
カナン「もらったぁーッ!!」
 
背後でこの距離、外すわけがない。これは軽量級のコアならば一刀両断にするほどの威力がある。これを
振り下ろせば終了だ。こいつは死ぬに違いない。勝てる。いや、勝った。そう確信した。だが…。
 
ゴオゥッ
 
ヴォゥン
 
カナン「…素晴らしい。生と死の狭間に直面した瞬間のあの反応…。この私の久しく乾ききった心がこれほ
ど癒されるのは、あの方に出会った頃以来だ…。」
 
フドー「ちッ、あんなものが直撃したら痛いじゃすまん。それにあの動き…。あのパイロット、できる。」
 
ほんのわずかな差だった。彼のコアがEOだったら、こんなことにはならなかった。
彼はこうなることを知ってか知らずか、OBを起動し、タッチの差でブレードをかわしたのである。その姿に、
彼女は畏敬の念さえ覚えた。その一方、彼は焦りを感じていた。
 
 
その頃…。
 
ウェイン「………来たッ!!」
 
ついに奴が来た。二年前、キョウを殺したあのACが。オレははやる気持ちを抑え、レーザーキャノンの照準
を合わせ、そして…。
 
バゴオォォ
 
レーザーは左肩に命中した。さらに砲撃を続行する。オレの記憶が合っていれば、奴のACは重量級だ。残弾
が心許ない今、この攻撃の結果如何がこの戦いの行方を大きく左右する。敵が手の内を知ったため、二回目
以降が正念場だ。
 
ウェイン「消え失せろぉーーーッ!!」
 
緑の憎しみの光が、怒涛の如くほどばしる。ついにACが目視できるところまで来た。そして、あの忌まわしい
記憶がフィードバックされる。が、それもこれっきりだ。コイツを殺す。殺して、オレなりに過去を清算する。あい
つが死んだなんて思っちゃいない。けれども、だったらなおさらコイツを生かしておくわけにはいかない気がした。
 
ライヤー「あぁ〜らボウヤ、生きてたの。悪運が強いわねェ。アナタのお友達といい、そのしぶとさ、まるで
ゴキブリみたいだワ。」
 
奴が目と鼻の先のところまできている。機体のあちこちが融けていた。しかし、奴はそんなことをまるで意に介
していないようだった。
 
ウェイン「ふん!オレはついてるぜ。捜し続けていた敵が今ここにのこのことやってきたんだからな。」
 
ライヤー「アハハハハハハハ!アタシゃアンタのお友達の依頼でここに来たのさ。管理者を破壊したアンタを
殺せってね!!アタシゃ笑いをこらえるのに精一杯だよ。ダウンな気分でしょ?そうよねぇ。だって信じてた
お友達に裏切られたんだもの。そんなアナタをタップリといたぶれるなんて考えてだけでシ・ア・ワ・セ♪」
 
ウェイン「そうか、だったらあいつに感謝しねェとな。あいつはちゃんと生きてて、しかもオレの復讐劇の役者まで
揃えてくれたんだからな。
…幕を上げようぜ。オレとてめぇによる復讐劇、『二年越しの決着』。これより開演…だ。」
 
 
 
「始まったか…。さて、万が一劣勢だったらコレ(CWX−LIC−10)で助けてやろうかな?」
 
「それは感心しないな、キョウ=サカガミ君?」
 
キョウ「誰だッ!!」
 
そこにいたのは、あのナインボールだった。少なくとも外見は。
 
「二人の兵(つわもの)が互いに互いの全てを賭けて戦っている。それに水を差すというのはこの世で最も
唾棄すべき行為ではないのかね?」
 
キョウ「ふん、ハスラーワンの口からそんな言葉が出るとはな。これだから人生はわからん。」
 
「ふ、本物のハスラーワンだったら今ごろ空港に現れて皆始末しているだろうさ。私の名はIBIS…。
『もう一つのレイヤード』の元管理者だ。これは彼の体の一つ。それを借りているに過ぎない。だから、
いまここで私を殺しても無駄だ。」
 
キョウ「くッ、まさか!」
 
IBIS「安心したまえ。私は無粋な真似はせぬ。それに彼は修理中だ。君の友人に手ひどくやられたものでね。
今日はただの顔見せだ。」
 
キョウ「貴様の目的は何だ?」
 
IBIS「私の目的、それは製造当初のプログラムを全うすること。そしてそれが私の役割。君のところの管理者も
同じ役割を担っていたはずだ。そして…私の役割は最終段階に入った。役割の内容は一週間後、大々的に公表
するから楽しみにしていたまえ。―エンドオブデイズ…。」
 
そう言い残し、IBISは立ち去った。再び雨の音が周囲を支配する。
 
キョウ(エンドオブデイズ?何のことだ?)
 
 
 
空港での戦闘はまだ続いていた。一方ではショットガンとマシンガンの、また一方ではやはりマシンガンと
ライフルの応酬が繰り広げられている。
 
ドガガガガガガガ…ズドォン
 
カナン「くッ、瞬間火力が違いすぎるか。ならッ!!」
 
フドー「逃がさんッ!」
 
間合いをあけ、高機動ミサイルを放つ。フドーもデュアルミサイルで追う。と、その時。エメラルドスプリットが
視界から消える。
 
フドー「真上!?」
 
スレイヤーに散弾の雨が容赦なく降り注ぐ。急いで脱出を試みるが、ピッタリとついてくる。そして、エメラルド
スプリット左腕が再び青白く光り、雌雄を決するべく、急降下をかける。
 
カナン「あああああッ!!!」
 
フドー「今だッ!!」
 
ドゴォ ドガガガガガガガ ドゴドゴォ ガガガガガガ…
 
カナンが急降下させてきたその瞬間にグレネードを当て、怯んだ隙にありったけの弾丸を撃ち込む。コアや腕
といった、上半身が気の毒なほど穴だらけになった。これを一言で形容するならば、真っ先に浮かぶ言葉は
やはり蜂の巣だろう。だが、驚いたことに、パイロットはまだ生きている。
 
カナン「ぐ…ッくく…。限界だ、離脱する…。せめて、ゆっくりと話がしたかった…。」
 
フドー「………。」
 
 
フドーたちの戦いが終わった一方で、復讐劇は一方的な展開だった。
 
ライヤー「このアタシが!こうもいいようにやられるなんて…!!」
 
『男子三日会わざれば即ち割目して見よ』とでも言うべきか、ライフルを中心に垂直ミサイルを織り交ぜた
三次元的な戦術と、遠距離からのレーザーキャノンによって、確実にライヤーを追い詰めていく。
 
ライヤー「このアタシが!このアタシが!!こんなヒヨッコにいいいいッ!!!」
 
ウェイン「…ヒヨッコも二年あれば立派な鶏になるんだ。相手の力量を見誤ったてめぇの負けだ。」
 
ライヤー「うるさい!うるさい!!うるさーい!!!死ね死ね死ねェ!!死ねよォッ!!!」
 
彼は半ば発狂していた。両肩デュアルミサイルは全てかわされ、マシンガンも破壊され、左手はシールド
を装備しているため、残された攻撃手段はEOしかない。格下だと思っていた相手にここまで追い詰められ
たのだ、無理からぬ話と言えよう。そして、彼は最後の攻撃手段、EOを起動する。
 
ガァンガァンガァン ガァンガァンガァン
 
ライヤー「ギャアァァァッ!?イッ、イッEーOーがァー!?キサマァァァー!!」
 
頼みの綱であったEOさえも破壊され、甲高い声でわめく。それは、自らの生を否定しようとする者への
最後の抵抗に見えた。そんな抵抗を、聞き入れるわけもらえるわけがなかった。
 
ウェイン「うるさいのはてめぇの方だ。今黙らせてやる。」
 
オレはおもむろに左手のライフルをパージし、右手のライフルを両手で構え、OBで突撃する。この距離では
いかなる回避、防御行動も間に合わない。奴のコアがダメージを受けていたのと、OBの加速もあって、銃身
がコアに深々と突き刺さる。
 
ライヤー「ひぃぃィィィ〜ッ!痛いッ!痛ぃいぃぃッ!!」
 
そして、トリガーを、引く…。
 
ウェイン「………終わりだ………。」
 
ガァァ…ン…
 
ライヤー「ぴグぅぅ…!う…。」
 
銃声によって断末魔がかき消され、放たれた一発の弾丸が彼の内臓を喰い破り、コアを貫通した。こうすれば
得られると思っていた達成感など無く、ただ虚無感が漂うのみ。
引きずり出されたライフルの銃口は、彼の血で紅く染められていた…。
 
ウェイン(…これで、これでオレがレイヴンやってる理由の大半が失われたな。次は…そうだな、キョウを捜すか、
ユリカと。あいつには言いてぇことが山ほどあるからな。…それにしてもこいつ、一度たりとも命乞いしなかったな…。
もし逆の立場だったら、オレは…そんなことができるのか…?)
 
何時の間にか雨は上がり、月が舞台を照らしていた。その月は…満月だった。
 
 
 
 
 
 
あとがき
いきなり出てきた敵がいきなり死んだり
IBISがわいて出たりとてんやわんやな
展開です。今思ったらこの話に出て死ん
だ奴って(二人ですが)みんなキチ○イ
じみた奴ばっか…(ゲフッ
作者:キリュウさん