サイドストーリー

Guardian 07-革命の幕開け
目の前に強固なシャッターがある。それにはあるエンブレムがペイントされていた。
青い菱形に白い文字で『MIRAGE』。
レイヤード三大企業中最大勢力会社ミラージュの中枢に僕たちはいた。
僕が組織に入ってから間もなく、三大企業殲滅作戦が実行に移された。
大勢で一気に制圧するのが一番なのだが、あのミラージュにこの少数人数組織H・Dでは勝ち目がない。
よって、小人数による隠密作戦に出た。
僕らはミラージュ壊滅実行班に任命され、何の障害もなくここまで来れた。
ルート上のセキュリティは全てハッキングに成功し、ほとんど停止させてある。
たまに警備員がいることがあるが、強化人間の第六感によって感知し、全て回避した。
やむを得ない場合は殺してもいいことになっている。
僕からすればゴミを捨てるのになぜ許可がいるのかわからないが、一応上司の命令なので聞かないわけにはいかない。
「こちらミラージュ壊滅実行班、班長のアルテスです。中枢の侵入に成功しました。
今現在はメインコンピュータへ続く道でシャッターに行き詰まっています。ロックの解除を依頼します」
僕は通信機を手に取り、オペレーターと交信した。
三大企業といえどその中枢にACが乗り込める程の広さはない。そんなに大きければ侵攻する方にしか得がないからだ。
現在僕たちは対人兵器を所持して武装している。
メインは消音ライフルだが、緊急用に消音ハンドガンを一つ、消音サブマシンガンを一つ、手榴弾を三つ持っている。
強化人間であればこれで充分だ。防弾チョッキの着用はやめておいた。強化人間であれば弾道がだいたい読める。
もちろん読めるだけであって回避は難しいが、かすり傷程度までには防ぐことができ、さらに傷はすぐ治る。
それを考えると防弾チョッキは回避能力を下げるだけなので不要だ、という結論に達した。
「ちょっと待ってください・・・パスコード送信中・・・ロック解除。できました。侵攻再開してください」
「了解」
通信機を懐に入れ、消音ハンドガンを構える。シャッターがゆっくりと開いてゆく。
薄暗いその奥には、ここから何があるか視認できない。
とりあえず、前進する。
後ろにいる五人の部下に手招きをし、僕はなるべく足音を立てないように進んだ。
「・・・む・・・」
突然部下の一人が声を上げた。
「どうした?」
「何かあったのか?」
他の部下たちが問いかける。
「・・・主将、ここから先は赤外線センサーが張りめぐらされています。おそらく装置を破壊すると本部にバレるでしょう。
俺が先に行きます。その後からついて来てください」
僕のことを班長、でなく主将と呼ぶこの体育会系の部下は、通常の強化人間よりも光を敏感に感知できる。
僕たちには見えない赤外線が見えるのだ。
ハッキングに失敗して残ってしまったセキュリティの一つだろう。
しかしこの程度なら何の問題もない。
用は触れなければいいのだから。
「わかりました。では僕より先に進んでください」
「了解」
僕の身長は176cmだが、この部下は僕より10cmは高く、この組織に入るまではスポーツか何かをやっていたのだろう。
華奢な僕と違って体つきがボディビル並みだ。
何もないように見える通路を匍匐前進や体を捩りながら進んで行くが、僕たちには見えない線に触れないよう奮闘しているのだ。
あの姿はまさに軍人という感じだ。
強化人間は出来事を常人よりも鮮明に記憶できるので、今この部下がとっているポーズを完全に覚え、すぐに真似ることができる。
僕たちも這いつくばったりしゃがんだりしながら進む。
「ここで赤外線は無くなっています」
前を進んでいた部下が立ち上がり、歩み出した。僕らもそれに続く。
僕たちはこいつの言うことを信じてはいるが、普通の人間ならば完全には信じ切れないだろう。
自分には見えなくて、こいつは見える。それは霊を見ることのできる人間を信じるか信じないかと似たようなものだ。
だが、この場合は違う。強化人間はあり得ないことでもやってのけるのだ。
疑う方がおかしい。
それは僕たち強化人間の中で暗黙の了解である。
そして、新たなる障害が目の前にあった。
「これは・・・」
シャッターではなくこれは両開きの扉のようだ。だが、その横にカードキーロックシステムが付いている。
つまり、それを持っていないと侵入は不可。
「古い手を使っていますね・・・これで意表を突いたつもりでしょうか」
僕は舌打ちをした。
今ではカードキーロック等という古い方式は使わない。
手相認識システムが導入された後、重要物資が保存されている部屋はすべてそれを採用している。
しかし、ここで使うというのはどういうことだろうか。
「・・・こちらアルテスです。カードキーロックらしきものを確認しました。
形式ナンバーはタイプ:90544です。解除法を検索してください」
通信機を取り出し、オペレーターに告げた。
「タイプ:90544ですね。わかりました。検索を開始します。しばらくそこで待機していてください」
待機か。
「・・・みなさん、解除法を見つけ次第連絡するらしいので、しばらく待機せよとのことです。
警戒を怠らずに。敵は発見次第排除。わかりましたか?」
僕は交信を止めて部下たちに言った。
「了解!」
「・・・了解」
「了解しました」
「ラジャー」
「御意」
それぞれの性格が表れた返事が返ってくる。
最初に元気良く了解と言った部下はクリス。この五人の中では一番実力がないが、忠実さと真面目さではトップだろう。
レイヴンではないが、こいつはどちらかというと情報収集に適している。きょろきょろとせわしなく周りを見回している。
次に返事をした暗めの部下は、レイドという奴だ。こいつに関してはあまり知られていない。
陰が薄く、黙っていればこっちは気づかない程で、その特徴を考えて暗殺業に就いたこともあるらしいが、詳細はわからない。
五人の中では俊足で、大抵の敵は一人で殺ってのける。レイヴンではあるが、その場合の実力はイマイチだ。
今のところは一番役にたっているだろう。そして、部下の中で唯一のレイヴンでもある。
やはり組織のレイヴンの数は相当少ないようだ。
「へっくしょん!」
クリスがクシャミをした。それに呼応して部下の一人が口に指を当てる。
そのクリスに注意を促した部下が先程赤外線センサーを感知した巨漢、グランク。
さっき述べた通り、こいつは赤外線を感知し、巨体である。腕力や単純なパワーは僕を凌ぐ。
ただ、こいつの戦闘は多くが力任せであり、強化人間で武術を持ってすれば簡単に勝てる。
強いのか弱いのかわからないタイプだ。
次に、任務中にも関わらず葉巻を吹かしている部下は、僕の命令に対し『ラジャー』と応えた人間、スティーヴ。
国籍が他の四人と違い、瞳の色が違う。それらから考えるとコミニュケーションが取りにくそうだが、そんなことは全くない。
むしろ、良すぎるぐらいだ。僕が入る前まではこのスティーヴが指揮を執っていた。
その指揮力はなかなかのもので、僕がいなくても全然心配はいらない。戦闘力は全体的に高いレベルでバランスが取れている。
五人の中でリーダー的存在なのもそれが由縁だろう。
確かに態度には問題があるが、こいつが今休憩してもここに来るまでの功績を考えてあえて注意しないことにしている。
最後に、『御意』と言った人物はカガシ。東洋系の人間だが、国籍は僕と同じだ。
しかし、国籍といってもレイヤードに入る前にその家系が持っていた国籍を受け継いでいるだけで、だんだんと混血状態になりつつある。
民族差別などは当然存在しない。突然だが、カガシは相当のマニアだ。
彼の部屋には500体ほどの某アニメのフィギュアが飾ってあるらしい。
クリスの証言によると、彼の生活空間は全てフィギュアに埋め尽くされているらしく、埃一つかぶっていないという話だ。
何よりも、彼はそれら全てを溺愛しており、僕らが傷一つつければ多額の弁償金を請求される。
実力は火器の扱いに関してはナンバー1。肉弾戦は普通人に近い。
武器を持たせれば何の問題もないが、弾がなくなるとたちまち弱気になり、すぐに投降するという話だ。
カガシは、僕が見ているのにも気づかずポケットから一つのフィギュアを取り出した。
僕から見ればそれが何なのかわからないが、カガシにとっては宝物なのだろう。
壊れる可能性がるというのにそのフィギュアを見つめ、微笑している。
ほのぼのした光景だ。
簡単に死の淵に立つかも知れないというのに。
突如、クリスが僕たちの通ってきた通路の奥を向いた。
「班長、人が来ます」
静かに告げると、全員の顔が引き締まった。即座に全員が武器を通路の奥に構え、目標が目測できる位置まで近づくのを待つ。
「・・・警備員・・・?いや、あれは・・・!」
クリスは気配に関しては一番敏感である。
「強化人間です!」
クリスが驚愕した顔で通路の奥を睨む。
僕たちの持っている消音ハンドガン、消音ライフル、消音サブマシンガン、
通称『消音兵器』は消音というだけで威力や弾速は普通の火器と同じだ。
これで相手が強化人間であれば、肉弾戦になる。
「来たぞ!」
グランクが叫ぶ。
通路の奥から桁違いのスピードで人間が、いや、あきらかに強化人間が突っ込んできた。
「うぉおお!」
カガシが消音サブマシンガンを乱射する。確かに弾道は見切られるが、これだけ弾が多ければ一つは当たるという考えだろう。
だが、奇襲者は避けない。全て前面に突きだしたシールドで防御している。
弾がそれに当たり、弾ける音と共にそいつはぐんぐん近づいてくる。赤外線センサーの電源は切ってあるようだ。
つまり、この戦闘を見越してのこと。
そいつはカガシの目の前にまで近づき、シールドをカガシに投げつけた。
まさか盾を捨てるとは思わなかったカガシは、シールドに直撃した。
「ぐっ!」
カガシが呻く。
「野郎!」
グランクが肩を突きだして突進する。敵はひらりと上空に飛び上がり、グランクの突進を避わす。
グランクはそのまま壁に衝突した。しかし、敵に向かって銀色の光が放たれる。それは敵の右腕に突き刺さった。
「ぐっ・・・!」
流石に避けきれなかったその攻撃は、スティーヴのナイフだった。
敵は臆することなく空中でそのままナイフを引き抜き、左手でスティーヴに投げ返した。そこにスティーヴはいない。
空しく床に突き刺さるナイフを無視して僕はハンドガンで敵を狙い撃った。
わずかに身をよじって敵は弾丸を回避したが、寝ころんだままのカガシによる射撃で撃ち落とされた。
「ふう・・・」
クリスがため息を吐く。その顔は汗ばんでいる。その横ではハンドガンを構えたままだったレイドが銃を下ろす。
この二人は何もしなかったが、僕たちで充分だった。カガシは起きあがり、腕を回したりしていた。
脚も動かしたが、何の問題もないようだ。
と、突然何かに気づいてポケットに手を突っ込んだ。
「!・・・ああ!」
「どうした?」
肩を押さえているグランクが聞くと、カガシの手には上半身と下半身が分かれた少女の人形が握られていた。
「壊れちゃったよぉ・・・うっ・・・うっ」
カガシは涙を流しはじめた。
「・・・不運だったな」
久しぶりにレイドが口を開く。
「結局こいつは何者なんだ?」
カガシには気にも留めずにスティーヴが聞いてきた。こういう状況は慣れているのだろう。
床に転がったまま起きあがらないこの敵は、何者だろうか。
カガシの弾丸はどうやら心臓に当たり、そのまま貫通したようだ。
頭にはフルフェイスのヘルメットをかぶり、漆黒の軍服を身に纏っている。まさに暗殺者のような服装だ。
しかし銃器を一切持っていないというのは僕たちが強化人間ということを見透かしてのことだったのだろうか。
こいつが持っていたものといえば盾のみだ。
「おい、どこを見ている」
レイドが突然呟く。
「何ですか?」
僕が聞いてみる。
「そいつの武器がないってんだろう?・・・シールドを裏返してみな」
言われた通りにこいつの持っていたシールドを裏返してみると、そこには僕たちと同じ消音兵器が幾つか仕込まれていた。
「何で知ってる?」
スティーヴがレイドに問いかける。
「こいつは昔俺が所属してた暗殺業の服装とまったく同じだ。どうやらミラージュは暗殺者を雇ってるようだな」
レイドは淡々と答える。
「てめえがやってた暗殺業ってのは昔の仲間がいても迷わず殺すっていうのかよ?」
グランクは同等の立場の者には少し荒々しい言葉を使う。
「当然だ。敵は殺す。敵は敵だ。昔も何もない。殺す理由があれば殺すだけ。情けなど存在しない。暗殺業とはそういうものだ」
「だったら何でお前はこいつを攻撃しなかったんだ?暗殺業ってのはそういうもんなんだろ?」
グランクが続ける。
「俺は今は違う。俺は隊だ。それで充分なら自分がわざわざ手を出してもしょうがあるまい。わかったか?この猪突猛進が」
「何だと!」
グランクが憤慨する。
「やめてください。今は任務が最優先です。ケンカをするのなら任務から外れてもらいます」
僕がレイドに殴りかかろうとしたグランクを制しながら言う。
「班長のいう通りです。今はそんなことしてる場合じゃありません」
珍しくクリスが強気に出る。
カガシはまだ泣いたままだ。スティーヴは先程の奇襲者のヘルメットを脱がしたりしている。
「・・・了解」
レイドが呟く。
「はいはい。わかりましたよ」
グランクも渋々退いた。
「で、こいつの正体なんだが・・・」
スティーヴが今さっきあったいざこざを無視して告げる。
「とりあえず身元不明だ。でもいいもん持ってたぜ」
スティーヴの指にカードが挟まれていた。

「先程通信した件ですが解決しました。検索は結構です。それと強化人間が現れました。
身元は不明ですが、ミラージュに雇われた暗殺者のようです。その奇襲者からカードキーを入手しました」
僕は通信機を片手にオペレーターと会話しながら通路を進んでいた。
「わかりました。おそらくその奇襲者はそのカードキーロックの奥に行く予定だったのでしょう。
多分あなた達がそこにいるのに気づかないで歩いていたら、突然敵が現れたので襲ったまででしょう。
しかし、そういうことであればこちらの動きがばれている可能性もあります。
あなた達が奥に行くのを読んで暗殺者を向かわせたのかも知れませんから」
「了解しました。では通信を切ります」
通信を切り、今度は違う回線につないだ。
「こちらアルテス。ローズさん、そっちはどうですか?」
通信機越しに聞き慣れた女の声が聞こえる。
「こっちは順調よ。一回警備員が出てきたけど瞬殺してやったわ。で、そっちはどうなのよ」
「強化人間が出ました。生憎フィギュア以外は無事で、軽傷もありません」
「フィギュア?・・・ああ、カガシくんか。泣いただろうね。可哀想に・・・じゃあ切るわね。がんばって」
「はい」
通信を切った。
カガシは今だ嗚咽を吐いている。
「なぁ」
後ろからスティーヴが話しかけてきた。
「何ですか?」
スティーヴの顔はにやついている。
「班長と第七階級執行委員会幹部聖銃騎士団団長ってデキてんですか?」
第七階級執行委員会幹部聖銃騎士団団長・・・?
「ああ、ローズさんですね。僕たちは決してそんな関係じゃありませんよ。あの人はただ僕をこの組織に誘ってくれた人です。
今の通信は私事ではなく仕事です。誤解しないでください。彼女は誰にでもああなんです」
「へぇえ・・・そーですか」
スティーヴのにやけ顔は治らない。
スティーヴは上官に対しても敬語を使わない。
「そろそろですよ。人の気配がうじゃうじゃしてますからね」
クリスが言う。
「あとちょっとで任務終了か。あちらさんもうまくいってるようだし・・・気合い入れなきゃな」
スティーヴの笑みは消えている。
「ほら、泣くなカガシ。また買えばいいだろ?元気出せよ」
グランクがカガシを慰める。
「バカ・・・うっ・・・あれは・・・限定品で・・・ヒック・・・もう・・・どこにも・・・くそぉ・・・売ってないんだ・・・
激レアだったんだ・・・ああ・・・」
銃撃戦では主力のカガシがこれではたまったものではない。
「ところでクリスさん。敵勢力に強化人間はいますか?」
僕はクリスに問いかけた。
「安心してください。警備兵らしき人物が8人、あとはプログラマーなどの科学者と整備員です。そいつらは計16人いますが」
「では激戦は予想されませんね。みなさん、一気にブレインコンピュータを破壊してさっさと帰りましょう。
ブレインの破壊に成功すれば無駄な殺生はせずに撤退します。わかりましたか?」
「ああ、わかった」
「・・・殺してもいいのか?」
「えぇと・・・ブレインを破壊すればいいんですね」
「なるべく殺さぬよう加減せねば・・・」
「・・・僕の宝物がぁ・・・」
大丈夫なのか?
こいつらは。

「何だってんだ!」
スティーヴが柱の陰に隠れながら叫ぶ。
見えるはずなのに見えない。やみくもに逃げ回るしかない。
弾道が読めない。
警備兵はただ無情に手持ちのライフルを撃つ。
僕は目の前の机を蹴り飛ばして盾にし、その陰に隠れて防戦した。
机の表面があちこち弾け飛ぶ。
「畜生!」
スピードのないグランクは既に両足を撃ち抜かれ、倒れ込む。治るはずの傷も治らない。
「なぜだ!」
動けないグランクに銃口が向けられる。その警備兵の顔は無表情だ。
「やめろ!」
クリスがグランクを狙っていた警備兵を射撃した。確かに直撃したのだが、よろけるだけでダメージはほとんどないようだ。
防弾チョッキを着ている。
警備兵がよろけた隙にグランクは残りの力を振り絞って突進し、警備兵を薙ぎ倒した。
「・・・!?これは!」
警備兵が持っていた銃を見てグランクが驚愕する。既にその警備兵は圧死している。
「どうした!?」
スティーヴが柱の陰から聞く。
「こいつぁ・・・こいつぁ対強化人間用兵器だ!多分これの性能は・・・ぐぁっ!」
銃弾に当たったグランクがもんどり打って倒れる。
「グランク!」
レイドが近くにいた警備兵の一人の喉をナイフで切り裂き、グランクに駆け寄った。
「バカが!俺に構うな、奴らを殺せ!」
グランクは血を吐きながら叫ぶ。
レイドの左腕に激痛が走る。貫通した。
「くそっ!」
右腕に持っていたナイフを撃ったそいつに向かって投げつける。
警備兵の額に刺さったナイフは赤く輝いていた。そしてそのまま仰向けに倒れた。
「邪魔なんですよ!」
僕は掛け声を上げて机を投げた。木製の机といえどその中身を考えると恐ろしいほどの重量をほこる。
「う、うわぁぁ!」
無表情だった警備兵の顔が恐怖に引きつり、机に押しつぶされた。
「カガシは!?」
カガシを見ていない。まさか。
「ここだ!」
後ろでサブマシンガンを乱射している。気が動転していて気が付かなかったが、カガシはもう瀕死状態だ。
だが、マシンガンは撃ち続けている。
「クソ共がぁ!」
カガシは既に警備兵を2人倒していた。科学者共は全員どこかに逃げてしまったようだ。
ブレインを破壊する程余裕がない。
奴らの装備している武器は対強化人間用兵器だ。
おそらく弾速が相当速く、弾丸一つ一つに強化人間の回復を遅らせる物質が入っている。
それを作るのに金はかかるが、それさえ持っていれば普通人でも強化人間を倒せるだろう。
「ぎゃぁ!」
クリスが悲鳴を上げながら倒れる。出血の箇所を見ると心臓をやられたかも知れない。カガシももう倒れている。
まずい。
僕は銃器では成果を上げられないので、サバイバルナイフを取り出した。
どこにいる。
銃声は止んでいる。
残り二人はどうやら狙撃に徹しているようだ。複雑に入り組んだこの部屋で狙撃というのは厄介だ。
グランク、カガシは瀕死。クリスは生死不明。スティーヴは恐らく無事だろう。レイドは左腕損傷。
「そこだ!」
柱の陰から出てきたスティーヴは持っていたナイフを投げた。
「ぐ・・・」
スティーヴの投げたナイフの先で鈍い音がし、呻く声も聞こえた。だが、音からすると死んではいない。
「がっ!」
スティーヴも撃たれる。スティーヴの腹に当たった。
だめだ。
相手が狙撃している隙にブレインを破壊したい。だが、どれがブレインなのかわからない。
通信機も壊れた。
撤退だ。
僕は即座にスティーヴとレイドに指示を出し、瀕死の仲間達の回収に務めようとした。
まず、僕はグランクのところに駆け寄った。だが、弾丸が飛来する。それは僕の右肩をかすめ、血しぶきが上がった。
「しっかりしろ!」
グランクを持ち上げ、背負った。また弾丸が飛んできた。今度はすでに移動を始めていたので回避できた。
急いで僕はさっき来た道へ続く扉に走り、その奥にグランクを投げ込んだ。強引だが、時間がない。
僕が扉から出ると、スティーヴがクリスを運びこんだ。レイドはカガシを右手で引きずってきた。
扉の奥に逃げ込むと、僕は全員から手榴弾全部を回収し、扉に駆け寄った。
「何をするつもりだ?」
スティーヴが喘ぎながら聞く。
「どれがブレインなのかわかりません。とりあえず、全て爆破します」
「・・・マジか?」
僕は全ての手榴弾の安全装置を解除し、扉の『close』というボタンを押した。
ゆっくりと扉が閉まっていき、あと少しで閉まるというところで手榴弾を全て投げ込んだ。
それらはバラバラと広がりながら落下し、床に当たる。
僕は後ろに伏せようとして、突然胸に激痛が走った。
狙撃手の最後の銃撃が僕の肺を撃ち抜いたのだ。
「・・・かはっ・・・」
あと数pで閉まる扉の奥が黄金に輝き、轟音と共に僕たちは吹き飛んだ。
作者:Mailトンさん